『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』はほんとに寅さんだったのか。寅さん版、歴史の終焉。

男はつらいよ 寅次郎心の旅路 [DVD]

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消費税。円高。アラレちゃんメガネ。福沢諭吉の1万円札。心身症。寅さん映画は毎年(しかも本作までは盆と正月と2回)やっていたのだから、リアルタイムで世相を反映するような小ネタもあるけれど、さほどピンポイントじゃなくても数年の幅でいかにもその当時を思い出させるアイテムがいろいろでてくる。それが、毎週こうしてBSで放送していて現代に近づくほど(とはいっても、現代に追いつくことはなくて10年前で途切れてしまうのだけれど)、いかにもむず痒いようなかんじである。じぶんのばあいは80年代に入るともうダメで、なんでもないみょうなところでクッときてしまう。本作は89年ということで、自分が学生をやっているときにこんなことをやっていたのか(あるいは、寅さんがこういうことをやっているときに自分は学生をやっていたのか)、という妙な感慨。
それはそれとして、本作は舞台がウィーン。とってつけたようである。寅さんも最後に、俺は本当にウィーンに行ったのかなとぼんやり述懐するように、なんだか寅さんじゃないふうである。ウィーンを舞台にして寅さんの映画の画面にはならなかった感じ。また、マドンナ役が竹下景子だというのだけれど、寅さんと何がどうこうあるわけでもなく、ようするに寅さんは年齢がいきすぎてしまったようなんである。次の作品『ぼくの伯父さん』からは満男と後藤久美子が恋愛ぶぶんを担当することになるわけで、なんていうか本作は寅さんの一軍現役引退試合みたいなもんでもあるんである。
さくらが、お兄ちゃんはウィーンに行ってたんじゃなくてほんとは夢をみていたんじゃないでしょうか、といい、御前様が、寅の人生が夢見たいなもんじゃから、といい、さくらが、その夢はいつさめるんでしょうか、というのだけれど、もちろん、今となっては、その夢があと数年で覚めてしまうのだということも知っているのだから胸を衝かれるのだし、次回第42作から最終48作まではどうしても現役引退後の最終章めいてこざるをえない以上、本作は、1989年という年号に寅さんなりに反応してしまった、夢の終わりの始まりっていうか、
歴史の終焉というやつなのか。