『未来医師』読んだ。ひさびさのディック。

未来医師 (創元SF文庫)

未来医師 (創元SF文庫)

このまえ本屋で買ってた本。さいしょ、見覚えのないタイトルでピンと来なかったけれど、店頭で「あとがき」を見てみたら『Dr.Futurity』の初訳だと。なるほど未来医師ですか。なんか新作落語みたいなタイトルになったな。未来医者、とか。
で、内容としては、まぁ「解説」にあるとおりのジェットコースター・パルプSF、ってかんじ。「タイムトラベルもの」っていうか「タイムパラドックスもの」なんだけれど、なんかつじつまがあってるのかだいじょうぶなのか、みたいなところがありつつあれよあれよと進行、みたいな。最初のところは未来社会のディストピア的な雰囲気が描かれるのだけれど、とちゅうからぜんぜんかんけいなくなるし、そのへんはけっこうチープなつくりでもある。
ま、それはそうなのだけれど、いかにもディック的な強迫観念的なイメージ(異言を語る者とか、原始キリスト教徒とか、黒髪の女とか、男女の双子とか)がでていたりしておもしろい。あと、未来社会が完全に人口を管理していて、人間が一人死ぬと受精卵バンクから同じ部族の受精卵が一人、解凍されて生まれて死者の代わりとなる、それによって、みかたによってはある種の不死が実現されている、というあたり。そのために、個人の死は怖れられていなくて、医療行為は違法となっていて病気になった者はむしろ積極的に死にたがる(死んだら新しく健康な個体に生まれ変わるので部族レベルでは望ましい)、というあたりの社会のしくみの記述はけっこうおもしろい。
それでどうでもいいけれど、本の帯の惹句やカバー裏の作品紹介では「25世紀は人間の平均寿命が15歳」とか書いてあるけれど、それはやっぱり誤訳?で、本文ではちゃんと「平均年齢が15歳」と書いてある。ある社会の「平均年齢」っていう捉え方がいまいちぴんとこないのは確かだけれど、平均寿命15歳ではちょっと社会がなりたたなすぎると思う。
あとついでにいうと、文中で「コーヒー・ロイヤル」なる飲み物を飲むシーンがあるけれど、やっぱりそれはカフェ・ロワイヤルと書くべきではないでしょうかと思った。ちがうのかなあ。あるいは英語にしてしまうなら、語順も英語式にして「ロイヤルコーヒー」ってすべきではと思ったけどまぁそれはどうでもいいこと。