『大学卒業研究ゼミの質的研究』読んだ。正統的周辺参加とか状況的学習論とかの博論本という。

例によってTwitterかなにかで見かけて、面白いかもと思って読んでみたら、予想に反してごりごりの博論の書籍化で、正統的周辺参加とか状況的学習論とかにまじめにとりくんだというものだった。著者の人が、ある大学のあるゼミをフィールドに、観察とかインタビューとかしてGTA的なまとめ方も取り入れて、いろんなモデルを「生成」したりしている。この大学は、3年生からゼミに配属されることになってると。で、このゼミは、特色として、3年生と4年生をペアにする「ブラザー&シスター制度」というのをやっていて、4年生が3年生にいろいろアドバイスしたり3年生が4年生を手伝ったりするしくみになってるらしい。ところで、このフィールドになっているゼミというのは、著者の人の出身研究室でもあり、ゼミの先生は著者の人の師匠でもありこのテーマに関連して共著もあるという学習理論(だけではなくてもともとは心理学のひとらしいけど)の研究者であるようだ。とすると、まずぱっと思い浮かぶのは、この研究室のゼミ運営が、もともと協同学習とか学びの共同体とかみたいなことを念頭に設計されてるのだろうな、ということ。そうすると、この著者の人がこのゼミをフィールドにして見出すことは、けっこうあらかじめゼミの先生が意図的に仕組んだことなんじゃないか、という気がしてくる。それはそれでかまわないのだけれど、だとすれば、たとえばこれが仮に卒論だとして自分が卒論指導をするのであれば、とりあえずはまずその独特のゼミ運営形態を設計したゼミの先生に、その意図とか、工夫したところとか苦労したところとか、先生の目から見て狙い通りいっているところとか、狙い通りいかなかったところとか、思いがけない効果があったところとか、そういうのをインタビューしたら?と言うと思う。たぶんそのへんの情報がまずあれば、ずいぶん見通しがよくなったんじゃないかなーと思う。まぁ、大学で先生などをやってて、まぁ専攻のカリキュラムを組み立てたり研究室の運営なんかやっていると、そりゃまぁ、学年を超えた学びの共同体ができたらいいなあと思うわけだし、まぁそういうのがたまに成立すると喜んだりするわけだけれど、そういうのと、この本に取り上げられたゼミのような、たぶん意図的に設計されたゼミのケースとで、どうちがうかとか、どうやったらうまくいきましたのTipsとか、そういうのがあるとありがたいなーというのもあるし、あるいは、意外と、意図的に学習理論に基づいて意図的に設計したつもりの部分がさほど機能してなかったりしたら、それはそれでおもしろい。まぁ、あと、この本を読んでて、なにかちょっと物足りないなあと思わなくもなかったのは、これ、学習理論の研究だと思うのだけれど、じっさいにこのような学習が行われた、こんなパフォーマンスがあがった、というほうにあまり話が行ってないんじゃないかというか、たとえば「ブラザー&シスター制度」が機能したことによってそれが存在しない他のゼミと比較してこのような学びの相違が見られました、とか、そういうのがもう少しありありと押し出されてたら、自分的には満足したかなあと。