『裁判員裁判の評議デザイン』おもしろかった。コミュニケーション研究の知見をベースにした評議デザインの提案と分析。会議本としても。

例によって面白いというので手に入れて、ぱらっとめくったら付箋紙を使うようなはなしがあって、おお、いいぞと。裁判員裁判というのは、専門家と素人が話し合いをして有罪無罪の判断や量刑の決定をするものであると。それがうまくいくためには、評議のやりかたのくふう=評議デザインが必要である、と。で、コミュニケーション研究者と法学者と実務家とによる共同研究グループがあれこれやって、評議デザインとして①付箋紙法、②チャート法、③ライブレコーディング、④四相の言葉の使い分け、というのを提案して、実験して検証したり、あと法学の視点から検討したりして、それでじっさいに、裁判員制度が始まるときに提案されたそれらの評議デザインの一部(付箋紙法や、「四相の言葉」というの)はじっさいに裁判員裁判の評議の中でアレンジしながら使われたりしてるんだと、で、本のさいごのところでは実務家(裁判官)のひとたちをあつめて、じっさいのところどんなかんじかインタビューをしている。
で、これ裁判の話なんだけど、ようするに話し合いをきちんとしましょうということなんで、会議のやりかたの本としても読めるし、グループワークのやり方の本としても読めなくはない。
たとえば、さいしょに、評議デザインのされてない評議の例として、実験で大学生にディスカッションをさせると、次のような特徴が見られたと:

a 根拠を提示せずに主張を行う
b 議論の中で出された主張に対し、検討を行わずすぐに合意に到達する
c ある論点に関する議論についての結論を保留にし、次の論点へと進む
d 最終的な合意がそれまでの議論と結びつかない

あるいは、別の実験で、特にデザインしない評議を行ったグループのメンバーの事後アンケートにいわく:

「ずれを感じるときはあったが、とにかく崩壊しないように感じよくふるまおうと努めた」

うわー、あるある、というかんじ。そういうかんじでわあわあと言い合いをして、誰もがなんとなく雰囲気を壊さないようにしつつ結果なんとなく声のでかいやつがわあっと決めちゃうみたいな。
それじゃこまるということで、付箋で「見える化」しつつ進めるよ、というすじがきは、会議術の本と同じノリである。で、まぁ、裁判というのはふつうの会議一般の水準と比べると、要求される厳密性というか、議論の整合性の水準が格段に緻密なので、論点のかみ合わせに関して「チャート」を作って示す「チャート法」というのも提案されたけれどこれは実務からするといまいちだったみたい、とか。
試行錯誤もふくめ、おもしろい。
また、そもそも裁判って何よ、みたいなはなしにもつながってくるわけで、それはここで提案された「評議デザイン」について法学的な視点から(むつかしいけどなんとなくわかる)検討してる。で、何と最後の章のオチが「判断の共同主観的存在構造」、参考文献が廣松であると。それはそれで…