通勤電車で読む『TAKE NOTES!』。ルーマンの執筆システムだという触れ込み。

例によってTwitterで見かけた、ルーマンのカードボックスのシステムの紹介っていうかメモ術/執筆術のハウツー本ということで、これはやはり読んでみようかなとなるわけである。「ツェッテルカステン」と呼ばれてるけど言葉の意味は自分で調べるべしなのか、Zettelがメモとか紙片とかの意味、Kastenが箱、なので、「カードボックス」という次第。まぁな。でまぁしかし、読んでみつつ自分や学生さんがやるとしたらどうだろうなどと考えるわけである。で、たとえば大学の初年次教育でこの手のメモ術のトレーニングをしたらいいのかなと思いつつ、しかし特にうちの学生さんなんかはべつに「あらゆるジャンルの書物を読んで58冊の著作を執筆する」つもりもないだろうし、何のためかわからなければ「練習のための練習」みたいになって面白くないと感じちゃうだろうなあと。で、卒論ぐらいの段階で考えたり、あるいは自分が何かを書くべしとなったときのことを考えると、おおまかには使えそうだなあと思うけれど、実はこの手のカード式のボトムアップ式の執筆法というのは、自分的にはたしか川喜田二郎『発想法』でさいしょに感激したわけだしその後ハワード・S・ベッカー『論文教室』がほぼ決定版で、まぁそれでいいかなと。自分的には簡単にメモを作ってそこからボトムアップで書くというのをやっているし、学生さんの卒論指導でもそれを薦めてるんで、おおまかにってことでいえばこの本はすでにおおまかに知ってたりやってたりすることを書いてる本だともいえる。また、KJ法なんかだとフィールド調査でのあれこれをメモ(カード)にする、というところが出発点なわけで、そういう調査からの知見導出みたいなおはなしになってるのに対して、ルーマンは「研究計画:社会に関する理論。期間:30年。予算:ゼロ」なのだそうで、たしかにこの本も、本を読んでメモを取ってアイディアを出す、という流れで書いてあるのでフィールド調査をするというかんじがあまりない。なので、それなら、とりあえず新書で読めるしKJ法を薦めるかなあ、とか、ベッカーを薦めるかなあ、とか、まぁなる。
でまぁ、おおまかにということでなければ、この本、メモそのものの書き方というか、本を読んでもちゃんと自分の頭を使って自分の言葉に直して書いて自分の頭でキーワードをつくったりリンクをつけたりしろということを書いていて、まぁそれはおっしゃるとおり。でまぁそれを的確にしかもちゃんと結果に結びつく形でできるのは58冊も本を書くぐらいのひとだよなあ、と思わなくはない。まぁいい。いずれにせよ、たとえば自分にとってのこの手のやりかたの入り口が川喜田二郎だったりベッカーだったりしたように、この本が入り口になる人がいてもいいと思う。

あ、あとまぁ、卒論にせよ修論にせよ(いまの院生の人にとっての博士論文にせよ)、あるていどの〆切のプレッシャーの感覚があると、このシステムは心もとないかも。ルーマンは「期間:30年」なので、こういう、ボトムアップで書けるところから書く、止まったら別のところを進める、最終的にはいつか全体ができあがる、みたいなやりかたでもかまわないのだろう。でも、来年までに博論を仕上げろみたいなプレッシャーがかかると、そんなマイペースな気分になってられないだろうなあというのはある。それがいいことかどうかについてはノーコメント。でもいずれにせよそういう〆切の圧が現に存在するのであれば、それに対応する仕組みもあってしかるべしだろう。ひとつは従来の通りに、トップダウン式の締め切りまでのウォーターフォール式の工程管理をすること。じゃあ、ボトムアップでいくには?ということで、たとえば定期的な進捗管理につかえる研究会とかの機会を作る事でペースメイクする、みたいな?なんかそうなってくるとこのまえ読んでたアジャイルの話につながってくるかもな…