<フルキャスト>広がる派遣 暗部次々…事業停止で明るみに

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フルキャスト>広がる派遣 暗部次々…事業停止で明るみに
8月5日1時26分配信 毎日新聞
 人材派遣大手「フルキャスト」(東京都渋谷区)が3日、全支店の事業停止命令(1〜2カ月)という一企業としては過去にも例がない厳しい処分を受けたのは、労働者派遣法で認められていない港湾運送や警備業などに労働者を派遣して今年3月に事業改善命令を受けていながら、その後も同様の違反を繰り返したためだ。産業界の要望に応える形で拡大の一途をたどっている派遣業界。その裏で違法の常態化という負の側面が目立ってきた。【東海林智、市川明代】
 ◇危険職種へ日常茶飯事
 港湾運送や警備、建設業など専門的な知識や技術を必要とする業種に労働者派遣が禁じられているのは、慣れない仕事でけがをする危険性と隣り合わせになるからだ。
 港湾倉庫に派遣された男性(27)は今年2月、作業中に荷崩れに巻き込まれて足を骨折、いまだにリハビリが必要な重傷を負った。男性は労働者派遣法上の違法派遣だとは知らずに、5カ月間もこの現場で働いていた。別の男性(35)は「建設現場への派遣は日常茶飯事。『違反だ』と指摘したら、仕事を回してくれなくなるから口には出せない」と、常態化する違法派遣に憤る。
 これまで、違法行為は水面下に埋もれていたが、日雇い派遣で働く労働者が急増する中、業界が当たり前のように行ってきた行為が次々と明るみに出ている。
 その一つは、派遣会社側がデータ装備費などの名目で200〜250円を給与から天引きしていた問題だ。業界は、けがや物損を起こした際の「保険」などに使っていると説明し、「強制ではなく任意のもの」と主張していた。しかし、実際に事故などが起きた際に保険金は支払われていないケースなどが発覚。不透明な使途を労組が追及し始めた。日雇い派遣最大手のグッドウィル(GW)もフルキャストも今年に入り徴収を中止し、GWは過去2年分を、フルキャストは創業時の92年までさかのぼっての天引き分の返却をそれぞれ表明した。
 GW支店長だった20代男性は「業務拡大する中で、労働者派遣法や労働基準法などの知識も欠けたまま業務を取り仕切る支店長も目立つ」と指摘する。
 ◇労働者10年で3.5倍…生活は劣化
 派遣労働者に対する企業側の需要は大きく、労働者数は急増している。96年度の72万4248人が、05年度に254万6614人と10年間で3.5倍に増加した。この間には、正社員が減り、非正規社員が増加しており、その流れと軌を一にしている。人件費削減に力を入れる企業側の要望が派遣市場を拡大させた。
 労働者派遣法が成立した85年には、派遣対象が秘書、通訳など専門性が高い13業種だったものが、99年には一部を除き原則自由化された。フルキャストもここ数年売り上げを拡大、06年9月期の連結売上高は901億円と、前年同期比で34.1%も伸ばした。派遣される登録者は延べ174万人で、1日当たりの派遣人数は1万人を超える。
 ところが、派遣先が派遣元に支払う派遣料金(8時間換算)は05年度で1万5257円で前年度比で4.4%減少した。市場が拡大する中、企業間競争も激化し、利益を第一にした受け入れ企業の仕事ぶりが浮かび上がる。
 さらに、最近は、日雇いにさえならない「時間雇い」の働かせ方も目立っている。派遣で働く男性(27)は「今は仕事を紹介されても、4時間で仕事にめどがつけばそれで帰される。細切れの仕事ばかりでとても生活できない」と厳しい現状を訴える。需要が拡大する中、どんどん労働時間が細切れになり、労働者の生活の劣化が進んでいる。
 ◇法改正山場 労使綱引き
 労働者派遣法は、来年の通常国会で改正が予定されており、9月から改正法案づくりが山場を迎える。しかし、労使の思惑は対立しており、激しい綱引きが予想される。
 派遣業種は、同法成立以来拡大しているが、企業側は、今回問題となった港湾運送、建設などへの派遣も全面解禁するよう要望している。「規制が労働者の安定雇用を難しくしている」との立場だ。さらに、現行法は「労働者が同一の仕事に3年を超えて働いた際に、企業が労働者に雇用を申し込んで正社員化する」旨を義務づけているが、この規定の削除を求めている。
 一方、労働者側は業種の全面解禁や雇用の申し込み義務の削除には反対だ。フルキャスト労組の関根秀一郎書記長は(1)派遣可能な業務を、秘書や通訳、パソコン業務など専門性の高い業務に限る(2)派遣会社に登録されて日々派遣される「登録型」ではなく、長期の勤務が可能となる「常用型」を原則とする(3)派遣会社が受け取るマージンに上限規制をかける――などが必要だと訴えている。
 人材派遣のシステムで、受け入れ企業は代替可能な労働力を正社員に比べて安価に抑えることができる。一方、労働者側にとっては、賃金や福利厚生面で正社員より見劣りしてしまう。次の法改正では、光と影の両面を慎重に検討する必要がある。