通勤電車で読む『グリム童話の世界』。

グリム童話の世界―ヨーロッパ文化の深層へ (岩波新書)

グリム童話の世界―ヨーロッパ文化の深層へ (岩波新書)

グリム童話というのが、古代ゲルマンの民話そのものをそのまま蒐集したものではなくて、グリム兄弟の手が相当入っているよ、というお話はまぁ定番として、そうするとグリム童話から単純に古代ゲルマンの習俗とか信仰とかを取り出すことはできないし、グリム兄弟によるバイアスが何に由来するかというのも見ないといけないのだけれど、まぁひとつには「キリスト教」というのが当然、ある。また、グリム兄弟の蒐集の対象の中には北欧や南欧の民話も混じりこんでいたとか、またグリム兄弟がむしろ「メルヘンの構造」をよく研究していたために、蒐集された断片により普遍的なメルヘンっぽい修復作業を施した、というところもあると。そうすると、ゲルマンというよりももっと普遍的な神話構造みたいなものもよりいっそうそこにでてくるってのもある。で、おなじグリム童話からそういう、古代的なものと近代的なもの、民間信仰的・異教的なものとキリスト教的なもの、ゲルマン的なものと普遍的なもの、神話的なもの、習俗的なもの、具体的な歴史的出来事に由来するもの、そのたそのた、を読み分けるという作業は、けっこうむつかしい。新書のサイズでそれが説得力を持ってなされてるかっていうと、ちょっとうーん、という感じもなきにしもあらずだけれど、でも、いろいろ議論があっちいったりこっちいったりしながら、結局おもしろい。
シンデレラとサンタクロースとなまはげの話にはじまり、カエルの王様と鶴の恩返しというふたつの異類婚譚の比較による日本とキリスト教文化の人間−動物の距離感の違いの話なんかおもしろかった。けっこう今やってる授業のネタにもできる。