古本屋で買って通勤電車で読んだ草間彌生『蟻の精神病院』。シュルレアリズム、っていうかむしろ『うわさのベーコン』のくくりの小説。

蟻の精神病院

蟻の精神病院

草間彌生という人については、なんかきもちわるい水玉模様のカボチャのオブジェばっかり作っている樹木希林っぽいかんじの人、という程度のイメージだけで、まぁあんまり知らなかったのだけれど、あるとき、統合失調症なのだという話を耳にして、へぇ、と思っていて、まぁしかしなお別にそれ以上の関心もなかったのだけれど、学校帰りの商店街の古本屋をひさびさに覗いてみたら、この本があって、へぇ、文章も書く人なんだー、と思い、エッセイみたいなものかな?統合失調症の人が精神病院体験をエッセイに書いてたらおもしろいかしら、程度の関心で手に取り、そうすると小説であるらしいことに気づいてがぜん興味を持って、特価367円だったので何の抵抗もなく購入。
で、通勤電車の暇つぶしで読んでみたら、けっこう来ていておもしろかった、っていうか・・・まぁおもしろかった。なんていうか、小説といっても私小説のようなエッセイのようなものかなぁと思っていたら大間違いで、登場人物は蟻であるらしい。「蟻の精神病院」というのは、グリーン共和国のスクガー村にあるりっぱな櫟の木をくりぬいてできた、櫟精神病院と言う、蟻の精神病院のおはなし。語り手はアイリーンという芸術家であるらしい。で、その精神病院がろくでもないところで、有名でステータスの高い病院なので金持ちばかりが患者なのだけれど、医者たちは金の亡者で患者から付け届けや賄賂や贈り物をふんだくりまくっていて、しかもろくな治療をしないので患者はやたらと自殺する。等々。蟻の設定があるのかないのかよくわからないけれどときどき、思い出したようにやっぱり蟻の話だったんだというぶぶんもちらほらある。でもまぁ、大部分はろくでもない医者たちの生態と彼らへの悪口である。なんじゃそれは。そして、なによりこの小説の値打ちは、その異様な文章であって、ひとことでいうとですね、『うわさのベーコン』という小説がありましてそれに似ている。文章そのものが基盤から崩れている感じがして、えもいわれない不安感と滑稽さをただよわせている。それがなければたんなるグロテスクな寓話もどき、になってたような気がするのが、これはやはりおもしろいものを読んだような気になるわけで、この作家の他の小説も読んでみたい、と思わせるわけである。同時収録は「バイセクシャル」という、これまた唖然とするような短編。