通勤電車で読む『感じるオープンダイアローグ』。オープンダイアローグが新書で出た。

オープンダイアローグ、まぁおもしろそうで、いろいろ読んでたんだけど、新書が出ないかなと思ってたら出たので読んだ。日本とフィンランドでオープンダイアローグのトレーニングを受けたひとということで、自身がオープンダイアローグをどうやってトレーニングしたかを描いたり、実際にこんな対話で診療してますみたいなのを描いたりしてるところがおもしろいところ。で、これ新書なので学生さんに薦めるかというと、まぁ第一印象として、これを1冊目にするイメージは浮かばなかった。「マンガで読む」的なやつぐらいを入り口にして、あるていどの理解のベースができてから、この本でイメージをしっかりさせる、みたいなかんじかなあと。
あ、そうそう、この本は、だから、著者の人がオープンダイアローグに出会うまでのところのはなしもていねいに語られてるんだけど、その途中のきっかけの一つとして、精神科のいろいろきつい医療で行き詰っていた著者の人が目にして目からうろこだった発表というのが、なんか見覚えあると思ったらやはり、『生き心地の良い町』(https://k-i-t.hatenablog.com/entry/20131022/p1)の著者のひとのものだった。つまり、精神科の医療はたとえば自殺に対しても本人にどう集中してケアするかばかりに注目してたけど、こういう、コミュニティとかに注目するとか、むしろ本人にぎゅっと集中しないでふあーっと支えあうつながりのベースをつくっていくとか、そういうところが目からうろこだったというわけで、まぁそういわれてみればそうだし、オープンダイアローグが精神医学や心理学だけでない教育や福祉の領域からのアプローチからみても魅力的なのはそのへんだなあと思うんだけれど、ぎゃくにいうと、そういうのを知るのは、1冊目の本じゃなくていいな、というのはある。

寝て目が覚めそうになる時にいろいろ思いつくな。目覚め際になぜかこの本のことを考えていて、なぜこの本を1冊目にすすめるかんじがしないかの理由をまた一つ思い出した。この本、オープンダイアローグの具体的な手順みたいなことではなくて、そこで著者の人が経験している「経験の質」みたいなことを描こうとしている。みんなでしゃべっているだけでなんで治るのか?それはこういう経験をしているからだ。じぶんがトレーニングを受けて感じたこと、診療をやりながら感じていること、それを伝えるよ、というかんじ(いま改めてみたら、書影の帯にもそんなことが書いてありますな。タイトル『感じるオープンダイアローグ』もそうだし)。具体的なマニュアルが重要なのではない、こういう経験がおこる場ができるということが重要なのだ、というかんじ。で、じゃあそれはなにかというと、この本では、なんか、自己開示と受容、であるように見えるんである。で、それは、自分には、エンカウンターグループとかとあんまし変わんないじゃん、と読めたよというわけである。それはこの著者の人が、あれやこれやの個人史のなかで精神科のお医者さんになり、病院でかなりきつめの、まぁ拘束とか投薬とかの医療行為に加担することに耐えられなくなって、個人クリニックをひらいてなんやかんやでオープンダイアローグに出会ったよ、オープンダイアローグに出会ってトレーニングというか、まぁ教育分析みたいなかんじで個人史を振り返って自己開示したり受容されたりする中で非常に感じるところがあった、「これだ!おしゃべりするだけで人は生まれ変わる!私も生まれ変わった!」みたいな手ごたえを感じました、という流れなので、この著者の人にとってはオープンダイアローグに出会うことは、クライアントと(拘束や投薬とは違うやりかたで)向き合ういわばはじめてのやりかたで、そのいみではこのひとがクライアント中心療法カウンセリングやユング派分析やエンカウンターグループや、言ってみればちょっとゆるめの精神分析に出会ったとしても、似たような質の経験をしたのではないかなあと、読んでて感じたわけである。そのへんが、おなじ精神科医でも一方でラカンのなんのかんの御託を並べていた前歴のある斎藤環のオープンダイアローグ本(は、エンカウンターグループとの違いを言ったり、どっちかというと認知行動療法とかに肯定的だったりする)とはベクトルが違うのでは、と思った、というはなし。なので、まぁ学生さんが初めての1冊としてオープンダイアローグに入門するなら、もうすこしオープンダイアローグの固有性を教科書的に位置づけられるほうがいいかな、と思ったよと。
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