で、会話例が出ているのだけれど、強迫神経症の不潔恐怖の若い女性に、便を触るみたいなことを動機づけるわけで、いちいち怖がっている患者女子に、
「こうして、こう触ったりする。汚いって感じがするでしょう?」
「はい。汚いですよ」
「そうよね、こう、こんなにしたり」
「何、何してるんですか」
「ねぇ、嫌だよね」
「はい。はい。」
「で、それも自分も同じことをするかと思うと、怖いって感じがする?」
「で、できないです」
「できないよね。こんなところ(机を示す)も触らないでいつもこうしてるんだ(手を合わす)」
「はい。触れないです」
・・・
いやもう、電車の中で読みながら笑ってしまった。これはなんとなく読んでいる限り、たんなるやばいおじさんである。
そしてしかし、あるていどの長さのある会話例を詳細に解説しているのを読むと、これが完全に精密にコントロールされた「動機づけ面接」による治療的会話だとわかって驚嘆するわけである。たとえば上↑に引用したぶぶんで、著者はひとことも「触れ」と言っていない。患者の維持トーク「汚い」「嫌だ」を投げ返している。そのうち「できない」「触れない」というワーディングが患者から出てくる。「できない」「触れない」というのは、患者が不自由だと思っている気持ちを表に出しかけている、チェンジトークのきざしである。それを見逃さないで拾う、というのが動機づけ面接の腕の見せ所ということになる。
いやもう、そうなると、ものすごく微細な駆け引きである(ちょうどこのまえテレビで相葉ちゃんがワカサギ釣りをやってたけど、そんなかんじの繊細な釣りの駆け引きを思い起こす)。
というわけで、本書はすごく面白いし、勉強になる。自分的には、「ぱっと見には隙だらけのやばいおじさんに見えてじつは力のある治療者」という枠としては、ブリーフセラピー家族療法の若島先生(https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2020/12/25/234124)と同じ箱に入ると思う。
ところで、
この著者の人がオーガナイズしておられるのかしら、「OCDの会」(『強迫性障害』で悩む患者と家族のサポートグループ)というのがあり、
http://ocdnokai.web.fc2.com/index.html
ホームページでは『動機づけ面接トレーニングビデオ』などを販売している。勉強になりそう。