通勤電車で読む『方法としての動機づけ面接』。これは非常に面白かった&相当よかった。強迫神経症を行動療法で治療するお医者さんの動機づけ面接。

動機づけ面接の本を読むシリーズ( https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2023/01/25/002506 https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2023/01/30/212548 https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2023/02/15/234944 https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2023/02/16/214044 https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2023/02/20/234353 https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2023/02/22/153609 https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2023/02/22/201719 https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2023/02/27/165840 )。なんとなくタイトル的&本の厚さ的に、読みにくそうかなあと思って後回しになっていたけれど、読んでみたら非常におもしろく、また、かなり勉強になって相当よかった。ちなみに後から気が付いたけれど、著者の人は『患者の話は医師にどう聞こえるのか』(https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2022/01/20/220310)の訳者の人。さて、著者の人は、もともと強迫神経症を行動療法で治療するお医者さんであると。で、どうするかというと、曝露療法をやるわけである。つまり、たとえば不潔恐怖で手洗い強迫がある患者さんに、3日間ずっと手を洗わないでいさせる、で、便とか触らせると。キャーであるね。昔はこの著者は「鬼」と呼ばれていたんだそうで、けっこうぐいぐいとそういう治療をやっていたと。しかしあるときから動機づけ面接を知り、習得してやってみたらぐあいよかったよ、というわけなんであるが、つまり、患者さんに、気の進まない曝露療法をやらせるにあたって、動機づけ面接を使うよと。
で、会話例が出ているのだけれど、強迫神経症の不潔恐怖の若い女性に、便を触るみたいなことを動機づけるわけで、いちいち怖がっている患者女子に、

「こうして、こう触ったりする。汚いって感じがするでしょう?」
「はい。汚いですよ」
「そうよね、こう、こんなにしたり」
「何、何してるんですか」
「ねぇ、嫌だよね」
「はい。はい。」
「で、それも自分も同じことをするかと思うと、怖いって感じがする?」
「で、できないです」
「できないよね。こんなところ(机を示す)も触らないでいつもこうしてるんだ(手を合わす)」
「はい。触れないです」
・・・

いやもう、電車の中で読みながら笑ってしまった。これはなんとなく読んでいる限り、たんなるやばいおじさんである。
そしてしかし、あるていどの長さのある会話例を詳細に解説しているのを読むと、これが完全に精密にコントロールされた「動機づけ面接」による治療的会話だとわかって驚嘆するわけである。たとえば上↑に引用したぶぶんで、著者はひとことも「触れ」と言っていない。患者の維持トーク「汚い」「嫌だ」を投げ返している。そのうち「できない」「触れない」というワーディングが患者から出てくる。「できない」「触れない」というのは、患者が不自由だと思っている気持ちを表に出しかけている、チェンジトークのきざしである。それを見逃さないで拾う、というのが動機づけ面接の腕の見せ所ということになる。
いやもう、そうなると、ものすごく微細な駆け引きである(ちょうどこのまえテレビで相葉ちゃんがワカサギ釣りをやってたけど、そんなかんじの繊細な釣りの駆け引きを思い起こす)。
というわけで、本書はすごく面白いし、勉強になる。自分的には、「ぱっと見には隙だらけのやばいおじさんに見えてじつは力のある治療者」という枠としては、ブリーフセラピー家族療法の若島先生(https://k-i-t.hatenablog.com/entry/2020/12/25/234124)と同じ箱に入ると思う。
ところで、
この著者の人がオーガナイズしておられるのかしら、「OCDの会」(『強迫性障害』で悩む患者と家族のサポートグループ)というのがあり、
http://ocdnokai.web.fc2.com/index.html
ホームページでは『動機づけ面接トレーニングビデオ』などを販売している。勉強になりそう。